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2014/11/23

コレクター共振型インバータ

7MHzのE級アンプを作ってみようかと、ネットを探していたら、こんな回路が見つかった。
「コレクター共振型インバータ」だ。この回路は、その昔、仕事で使った事がある。その装置は、電話の着信信号の発生機だ。電話局であれば、16Hzの正弦波で80Vrms位をだす。宅内装置だと、正弦波は作りにくい(トランスが大きくなってしまう)ので、20Hzの方形波を使うことが多かった。20Hzをロイヤー回路で実現するのだが、トランスの磁気飽和を利用して、低周波の20Hzを作るため、効率が悪い上、発熱するし、トランスが大きくて重い。

そんな時、このコレクター共振型のインバータで±80V DCを作った上で、OPampの20Hz発振器でトランジスタースイッチングで装置を仕上げた。体積が小さくなった上、効率も格段に改善した。周辺回路を含めて、トータルで80%以上の変換効率を得たと記憶している。SWデバイスはパイポーラトランジスターを使った。
コレクター共振型に行き着くまでに、ジェンセン回路でも製品化したが、発振用の磁気飽和トランスがもう一個必要となるし、効率もコレクター共振型には及ばなかった。インバータについては、ここに記載がある。

FETを使わなくても、バイポーラでも高速にSWできる。スイッチング時にON時に電流は流れるが、共振のため電圧が立ち上がるところで0である。電流とクロスする時間が少なくて、ロスが少ない。OFF時も同様だ。最近ではこのことをZVS方式と呼ぶ。トランスの巻線を巧みに使うことにより、OFF時にSWトランジスターのベースに負の電圧を加えて、ベース-エミッター間に蓄積された電荷を急激に引き抜く。これによりOFF時の動作が高速化されSWロスを低減される。バイポーラトランジスターでも高速SWができる理由だ。FETが安価で低ON抵抗が実現できるまでは、みんなこんな回路の工夫をしていた。もっとも、今のFETでも、入力容量をドライブするにはコンプリメンタリーのMOSとかを使って、容量対策をしないと、高速SWはできない。この辺りは昔と同じだ。

話はだいぶそれてしまったが、調べていたE級アンプとコレクター共振型インバータは共通する点が多く、これをもう一度作ってみたくなった。デバイスは何でも良いが、E級アンプでも使おうと考えていたMOS FETの2N7000を使うことにした。
自分で一から考えると大変なので、参考になる物を探した。トランジスター技術2006年10月号の記事だ。

今回実験した回路図とトランスの仕様だ。「DC_DC_inverter.pdf」をダウンロード

まずは、こんなトロイダルコアで実験してみた。T90-26という材料だ。#26材は電源用のものだ。フェライトではなく、センダストのようなものだろうか。SW電源のチョークコイル用だ。aitendoで入手した。
結果は、失敗。コアロスが多くて、短時間でもコアが発熱する。コレクター側は20Tx2で約100uHを得ている。
Dscf0806

うまく発振しない時は、コイルの巻き始めを入れ替えてみる。回路図のとおりでないと発振しない。このような雑な作りだと、間違うことが多い。
Dscf0808


トロイダルではうまく行かなかったので、オーソドックスなEIコアで試してみる。インダクタンスは100uHを狙うが実際にには約87uHとなった。コア間のギャップは0.12mmのプラスチックフィルムを2枚挟んでいる。磁路としては2回ギャップが入るので0.24mm x2と計算すべきかもしれない。(フィルムはOHPのシート)
Dscf0810

ボビンの足は使わずに線を引き出しているので、線がごちゃごちゃしている。
Dscf0809


Dscf0812

結果は、入力12.0V時に110mAで、78Vp-p 1Kオーム負荷時を得た。実効値に直して計算すると、効率は58%ぐらいになる。
効率はそれほど良くないが、適当にコイルを巻いた割にはいい。まだまだ改善の余地ありだ。FETは全く熱を持たない。熱を持つのはC2 0.1uFとトランスの巻線だ。共振用のC2は普通のフィルムコンデンサーを使ったが、共振電流も流れるため、電流容量を求められる。ポリプロピレン製を使うのが普通だが、素人には手にはいらない。(※追記 千石電商に置いてあるようだ)セラミックとか容量に電圧依存性があるものもまずい。フィルムコンデンサーを並列に使うのが良いかもしれない。C2とトランスの1次側(ドレインの巻線)で発振周波数が決まる。
巻線の発熱は直径0.26mmのポリウレタン線を使ったのでこれでは細すぎる。2次側にどれほど巻くかにもよるが、0.4mmぐらいが良いだろうか。文献によると、この回路方式はコアの発熱もあって、一定以上には効率が上がらないようだ。巻数を減らして、C2を大きくする手もある。この辺りは追試が必要だ。
Dscf0818


発振周波数は約54KHz。これはドレイン-GND間の波形だ。この波形だけ見ると、まさにE級アンプの波形と同じだ。今回、E級アンプで、この波形を見てコレクター共振型インバータに至ったわけだ。(何と、話が回りくどいこと・・・・)
スイッチング電源の場合、電圧波形だけを観測していても不十分だ。Lを使う回路は、実は電流変化を見ないと理解が進まない。電流波形を見るのは簡単ではなくで、高価な方法では、テクトロニクス製の電流プローブとampを使う方法がある。DCから50MHzぐらいまで観測できる。
簡単には、1オームくらいの抵抗を挿入して、電圧に変換して見ることになるが、場合によっては、回路に影響を与えてしまうことになり難しい。Lに電流が充電していくさまを見ることができる。Cに電圧が充電される時のように。
Dscf0817

これは出力の、1Kオーム端の波形。ここに100V程度の耐圧を持った高速ダイオードで整流することで、直流を得ることができる。ただし、フィードバック制御をかけることができないので、トランスの巻数比のみで決まる電圧が発生する。トランジスターやダイオード、巻線のロスで負荷によって、電圧がドロップする。定電圧が欲しければ外部にドロッパーの回路を付加したりする。
これで真空管のB電圧を作ることもできる。ラジオの電源にもできるが、SWノイズをかぶってしまい厳しいと思う。オーディオアンプなら使えるかもしれない。
Dscf0816

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コメント

フェライトコアのコア材に関して書いてないけど、フェライトコアにもいろいろとあって、秋葉原で手に入るものはほとんど高μ材ですね。フェライトコアの周波数特性も問題になるかもしれません。コア材として正しいのは高BMS(高磁束飽和密度)材です。一般にパワーフェライトと呼ばれています。この材料として有名なのはTDKのPC-90ですが、調べればたくさんのメーカーが同じ特性のコアを作っています。もし今使っているのがパワーフェライトではない場合、パワーフェライトを使えば効率がもう少し改善するかもしれません。

投稿: トランス屋 | 2015/04/19 09:01

トランス屋さん
ブログをご覧いただき、ありがとうございます。
このページで使用しているコア材はTDKのPC40です。数年前に秋葉原のラジオデパートのアイコー2号店で購入しました。今は閉店してしまい手に入りませんが。

教えていただいたPC90材を見てみました。
http://product.tdk.com/ja/techjournal/tfl/ferrite/pc90/
これが手に入れば、もう少し効率が上がりそうですね。アマチュアではコア材や形状、ボビンなど自由に選べないのが辛いです。
まあ、色々な制約の中で楽しんでいます。

このブログの続きで、もう少し悪あがきをしています。ここでは、aitendoの詳細不明の怪しげなコアを使用していますが、PC40とほぼ同じような結果を得ています。(厳密な比較はしていません)
コア材の選定や巻き方、線径などもう少し追い込む余地があるかもしれません。リーケージを減らす努力も必要です。

この回路はシンプルで面白いです。私はこういった回路に惹かれます。

http://honda.way-nifty.com/pocky/2014/12/3-07bb.html

http://www.aitendo.com/product/7129


投稿: pocky | 2015/04/19 10:15

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